ある犬の訓練士のサイトを見て思いました。
人の固定観念や思い込みは、最初に影響を受けた人によって作られるのだと。仮にそれが間違いだったとしても、なかなか変えられないものだと。これは犬に関わるプロに限らず、一般の飼い主にも通じること。
権勢症候群(アルファーシンドローム)で検索すると、プロ・アマ問わずほとんどのサイトで「犬の問題行動は権勢症候群である。犬が人間のリーダーになったと勘違いしている」と書かれています。巷に出回っている高額な情報教材も、ほぼこの考えを元に作られています。
でもそんなに単純なものでしょうか?
人間だって10人いれば10とおり。男女の違いや人種・国民性の違いといったざっくりとした差異に加え、性格や生育・生活環境・経験によって細分化されれば、個性の違いはより顕著になっていく。
犬だって同じです。みんながみんな、「○○が原因です。この方法なら直りますよ」というほど単純じゃないはず。
犬とオオカミは別の生き物です
なぜこんな説ができたかと言うと「犬の祖先はオオカミ」というのが始まり。
まずその時点で胡散臭い。「人の祖先はサルだから、人が木に登りたくなるのはその名残り」みたいな、強引なこじつけですよね。
類似した部分はあっても、犬とオオカミは別の生き物です。
犬は人を違う生き物だと理解している
我が家では多頭飼いをしています。2匹はおもちゃの取り合いをしながらよく遊んでいます。でも対抗意識を燃やすのは犬同士の間でのみ。私たちにそういった意識は向けません。
それを見る限り、犬は犬なりに、自分は人間とは違う生き物であることをちゃんと理解しているようです。
人間だってどちらが上だの下だのと対抗意識を燃やすのは人間に対してであって、人が犬に対抗意識を燃やすことはまずないでしょう?いるとしたらせいぜい武井壮くらいです。
なぜそんなかんたんなことがわからないのだろうと、多くの躾本を読んで疑問に感じた私は、10年ほど前に麻布大学で開催されたJAPDTカンファレンスに出席しました。
権勢症候群はごくまれ
今でも記憶に残っているのは、こんな言葉です。
「犬の問題行動というと、何でもかんでも権勢症候群でかたづてしまっているけど、これは30年前の都市伝説。もちろんそういう犬もまれにいる。でもそれはほんのごく少数で、滅多にはいない。そういう犬は見るからにして異様で、目がイッちゃってる」
このように権勢症候群じゃない犬でもちょっと思い通りにならなければ権勢症候群にされてしまい、関係を悪化させるようなしつけ方法を実践しているケースは少なくないとのことです。その勘違いが原因で、保健所送りになった犬も実際に知ってます。
問題は人間にある
これを聞いたのは今から10年近く前。その時に「30年前の都市伝説」と言われたのだから、40年前の都市伝説が今もなお、巷でまかり通っていることの方が問題ではないでしょうか?問題は犬ではなく、それを全く疑問にも思わない人にあるって思いませんか?
講義の詳しい内容はこちらに転載されています。
犬の問題行動はストレスと不安
全文はコチラ 歯をむき出して攻撃の姿勢を見せるのは、社会化不足の臆病な犬が、自分の身を守るための攻撃であることがほとんど。それと「我慢」と「何が正解か」を教えてないことかな?優位性が有効な科学的な概念であるとはいえ、特定の犬の気質を説明するために使用されるなど、「優位性」という用語自体は一般に誤用されている。優位性とは性格特性ではなく、2つ以上の動物の個体の関係であり、どちらが食品、仲間などの大切な資源へのアクセス権を持っているかに関連している。
これは決して、一部の人々に力と攻撃性をもって反応させる、犬が私たちを「支配」しようとしているという信念の裏付けとして使われるべきではない。
これは、誤解や、誤解に満ちた敵対関係を形成するだけである。しばしば不幸な結果として、犬と人間のお互いに対する不安、ストレス、恐怖につながりかねない。このような、犬と狼についての誤った信念に基づいた犬の「アルファとしての役割」などのテクニックの使用は、現代のドッグ・トレーニングと行動修正には無用である。
この実体のない脅威に対し、犬はしばしばより大きな恐怖と攻撃性でもって反応するが、これは行動問題を悪化させ、犬とオーナーとの関係を台無しにする可能性がある。
「犬に引っ張りグセをつけてはいけないからリーダーウォークを実践しよう」とか、「部屋の出入りも食事も人間が先」なんていうのは全くのナンセンス。
と言われて、みんなが更生できるとは限らないのと同じです。
それより何をしたらダメというのではなく、人間と暮らすために必要なルール、「こうなったら犬との暮らしが楽しくなるだろう」ということを想像して、好ましい行動を伸ばし、そうでないことは最初から一貫してやらせないだけでいいとは思いませんか?
なのになんでマズルコントロールだのチョークチェーンを使ってのリーダーウォーク(ついて歩くこと)の必要性を説くのか、全くもって意味不明。
引張りグセをつけないとか、部屋の出入りを飼い主が先にするというのは、犬を危険から守るためであって、それをしたから服従本能が高くなるわけではありません。最後に
そもそも「人間の最大の友」と言われている犬に対して「服従本能」という言葉も失礼極まりない。犬は人を困らせようと思って生まれたわけではないし、人間を支配しようと思ってその家に来たわけでもありません。
犬に対して「なぜわかってくれないの?」と思うなら、まずわかってない自分をわかるところから始めましょう。
これまでに、我慢することを教えましたか?
メリハリのあるしつけを実践してきましたか?
叱るときに、苛立ちの気持ちを持って接してきませんでしたか?
叱りっぱなしではなく、ちゃんと正解を教えましたか?
「犬に恐怖を与えた経験はない」と、自信を持って答えられますか?
以上、これは物言えぬ犬に代わっての答弁です。
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