現在までに3頭のトイプードルを飼い、それぞれに訓練士をつけてきた経験上、プロである訓練士でも犬に対する考え方には大きな違いがあることを実感してきました。
そのひとりは「主従関係を明確にすることが犬にとっての幸せ」と解く、最近ではナンセンスとされる考え方を持つ訓練士・A。
彼の言い分は、「犬は群をなす習性があるので、家庭に迎えられても家族の中で順位付けをする。そして自分が優位に立ったと思えば問題行動を起こす」という考え。
ところがこの考え方は、最近ではあまり根拠のない考え方だとされています。
犬と人間に必要なのは主従関係より信頼関係
次に知り合った訓練士・Bは、「犬の問題行動の多くは、主従関係ができてないことが原因ではなく、信頼関係ができてないことだ」と説いています。
そしてこれが最近の主流になっていて、私も全く同じ意見です。補足するなら上下関係はもちろんたいせつですが、信頼関係のない上下関係は成立しないと思っています。
この考え方に深い感銘を覚えたのは10年近く前、麻布大学で開催されたJAPDTカンファレンスに出席した時のことです。
犬との信頼関係の作り方
では生後2ヶ月程度の子犬と、いったいどうやって信頼関係を作っていったらいいでしょうか。ご自宅に我が子として迎え入れたら、即、この関係づくりに取り掛からなくてはいけません。
犬のしつけのかん違い
ここで多くの方はつまづきます。犬の流儀を全く無視した人間の流儀を押し付けるからです。
例えば「甘噛みをしたら、キャインと鳴くまでマズルをつかむ」…。このような都市伝説でしかないやり方を、未だに実践している飼い主さんも実際にいるようです。しかもそれをしつけ教室の先生やブリーダーから教わったというではありませんか。ああ、恐ろしや…。
信頼関係の作り方どころか、人間不信にさせるやり方で、しつけという名の虐待を行っているのです。それ以外にも、甘噛みをしたら手を犬の口に押し込む、トイレを失敗したらその場所に犬の顔を押し付けるなど、数え上げたらキリがありません。
生後100日にも満たない子犬に、このようなイジメを行って、いったいどこが楽しいのでしょう?
私は不思議でなりません。そんなことをするために犬を飼うのでしょうか?
犬を飼うのは、犬と楽しく暮らしたいから飼うのではないですか?
確かに一昔前までは「マズルコントロールとホールドスティールは、服従訓練に欠かせません。子犬の頃から必ず行ってください」と、多くのしつけ本には書かれていましたし、私も最初の訓練士・Aからやり方を教わりました。
以下の動画を御覧ください。
この動画に対するコメントに、「可哀そう・・・。止めてあげて。」というのがあるように、この10年ほどの間で「マズルコントロールは必要ではない」という考え方に変わっています。
なぜなら少しでも早く主従関係を作ろうとして、犬との信頼関係が出来る前から飼い主が無理やり行ったり、甘噛みの体罰として(前述の”キャインと鳴くまで”という方法)行う人がいるからです。その結果、犬は飼い主の手に対して嫌悪感を抱くようになるのです。
犬をていねいに扱うべき
信頼関係がたいせつと説く訓練士・Bの言葉で忘れられないのは「犬の心を壊すなんてかんたんなことだ」というこの一言。
だから彼は体の手入れを必要とする小型犬にはこのようなやり方を推奨しなかったのです。「弟子たちにも、決してそれをさせなかった」と胸を張って言います。そしてこうも言いました。「犬を丁寧に扱ってください」と。
本当のマズルコントロールとは?
なぜマズルコントロールが必要だというくだらない説ができたかと言えば、母犬が子犬に対して行った教育だとか。「マズルは犬が嫌がる部位なので、そこを触らせるのはリーダーと認めた証」となっています。
嫌がることをしてリーダーって…? なんだかヘンですよね。
では実際に母犬はどのように子犬と接しているでしょうか。以下に本物のマズルコントロールがあります。
コメントにはこうあります。
マズルコントロールでは「口を開けて歯を見せる」という点が重要です。母犬は決して力を入れて咬んだりせず、せいぜい歯を当てる程度です。人間が「手でマズルをつかむ」というしつけ方法は、全く無意味で単なる虐待です。親犬の真似をするなら、人間も「口を開けて歯を見せる」方が通じやすいです。ただし、早期に親から引き離された仔犬だと、母犬から教育されていないので、マズルコントロールの意味を理解できない事があります。
まさにそのとおりで、(悪質なパピーミルではない)本物のブリーダーなら、生後3ヶ月以上は、母犬から子犬を離しません。母乳が離れても兄弟犬同士で遊ばせて、犬同士の触れ合いを通じて犬の流儀を学ばせます。
ところが小さければ売れる、いつまでも手元に置いておくと費用がかさむなどの理由から、生後2ヶ月にも満たない子犬が市場に出回る日本のペット業界、ここにも深刻な問題があります。
子犬は犬の流儀を知らないまま母犬から引き離されます。一方人間は、人間の勝手な思い込みによる流儀で、犬にとって虐待でしかないしつけをします。その結果心を病んでいくのです。
シーザー・ミランの著書によれば、問題行動を起こす犬は、そのほとんどが心を病んでいるとのことでしたが、その原因は紛れもなく人間が作っているのです。
犬社会のマズルコントロールはコミニュケーションの一貫である
先にご紹介した二つの動画を見るかぎり、人間流のマズルコントロールと犬流のマズルコントロールには大きな違いがあります。人間が行うのマズルコントロールもどきは犬を力づくで押さえつけるためのもので、人間が一方的に行っています。
一方犬同士はどうかと言えば、とても平和的に行っていますし、一方通行ではなく、子犬の方からも母犬に対して歯を当てています。少なくとも力を見せつけるための、上下関係を誇示するような行為には見えません。
もう一つご紹介。こちらはホワイトシェパードの親子です。
やはり柴犬同様、じゃれ合う感じで平和的に行っていますね。
犬のマズルコントロールと人の手によるマズルコントロールの決定的な違い
決定的な違いは何かと言えば、人間は手を使っていることです。
これは犬社会にはないことなので、犬にはなぜそんなことをされるのかと理解できなくて当たり前です。平和的に行うならともかく、罰としてキャインと鳴くまでマズルをつかむ場合は、人間の苛立ちも伴います。そんな時はたいてい怒りの気持ちを犬にぶつけようと、犬の目を睨みつけるでしょう。
もっと始末の悪い飼い主は、何時間も罰としてケージに閉じ込めたりします。
厳しく叱れば主従関係が築けると思ったら大間違いです。 仮に叱るなら犬の流儀に則り、現行犯逮捕が原則。しかも一瞬で完結しなければなりません。
犬は0.5秒で忘れます。いつまでもくどくど叱るのは人間の流儀を犬に押し付けているだけで、犬が混乱するだけ。その結果、人間に対して不信感を抱くようになるのです。
マズルコントロールで犬の心に傷を残すやりかた
動画では、母犬は子犬の目を睨むなんて余計なことをしていませんから、子犬はマズルコントロールをされても無邪気にじゃれついて遊んでいます。つまり母犬は信頼関係を壊さない方法を実践しているのです。
人間が手で乱暴に扱い、怒りに任せて睨みつけられたとしたら子犬はどうするでしょう?
恐怖を覚え、ブルブル震えて尻尾を巻き込みます。何かを教えるどころか恐怖だけを覚え、結果、人間の手を怖がっていくのです。
犬には「人間の手は優しくなでてくれるもの・ダイスキなおやつをくれるもの・楽しく遊んでくれるもの」と教えないといけないのに、これでは有害でしかないですよね?
小型犬同士はどうだろう?
我が家では犬同士のコミニュケーションはリラックスタイムに口を使って行っています。一方だけが自分の力を誇示する感じではありません。交互にペロペロと友好的にやっています。
トイプードルなのでマズルを咥えるほど口の大きさがありませんからこうなるのかもしれません。それか、単なるじゃれあいかもしれませんね。いずれにせよ、仲の良さがよくわかります。
犬は元々平和主義です。厳しくすれば上下関係を作れると、時代遅れのしつけ法を実践しようとする飼い主よりもはるかに現代的で賢いです。
もし子犬と本当の信頼関係を作りたいなら、動画の母犬のようにしつこくじゃれついても短気を起こさず、子犬を怖がらせず、罰を与えることもしないで根気よく付き合っていくしかないのです。
そうそう、かつて訓練士・Bに「お母さんではなく、母犬になったつもりでこの子たちに接してください」と言われました。まさにこれを言いたかったのでしょうね。
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