Violet@Tokyo

【八王子中2女子いじめ自殺事件】八王子六中・保護者会でのありえない説明

約10分



2018年8月28日、ひとりの女子中学生がJR西八王子駅のホームから電車に飛び込み自ら命を絶ちました。即死ではなく、2週間苦しんだ挙句の死。いや、正確には1年以上、よってたかって苦しめられた挙句の死です。

永石陽菜さんのいじめ事件内容

自殺の原因は、部活のトラブルによるいじめです。いじめが始まったのは、被害生徒が中一だった2017年の夏からで、2学期から不登校になり、翌年4月、別の中学に転校。新たな一歩を踏み出したものの、6中で受けたいじめがトラウマとなって新しい学校にも満足に通えず。

さらに追い討ちをかけたのが、転校してまで続くSNSでの集団リンチ。家にいたってSNSを通じてメッセージが次々届けば、心が休まる暇などありません。そんな思いをまだたった13才の子がしていたら、家族がどれほど味方してくれても心は簡単に回復しないでしょう。例え転校しても、学校や制服を着た生徒自体が恐怖の対象になってしまうことは、容易に想像できます。

もうすぐ新学期という時にとうとう限界を迎え、自らの命に終止符を打つ。こんな悲劇はいつまで続くのでしょう。いつまで同じことを繰り返せば気が済むのでしょう。

この事件は「八王子中二女子いじめ自殺事件」としてマスコミにも大きく取り上げられ、関係者のみならず、周辺地域の人たちにも大きなショックを与えました。

八王子六中・保護者会での言い分

マスコミ報道で事件が大きく取り上げられたことを受け、学校は2018年11月、保護者会を開き事情説明をしました。私はそこに出席した保護者の方から保護者会での様子を聞く機会を得ました。学校側の説明は以下のとおりです。

  • トラブルに関して→いじめをした加害者と今回自殺した被害者との間ではとうに和解している
  • いじめ加害者について→八王子6中にはいじめをするような悪い生徒はいない
  • いじめを見て見ぬフリをするような、いい加減な教師もいない
  • 八王子6中は、とても良い学校だ
  • ご両親が訴えを起こしたのは、娘の自殺で精神錯乱状態になったから
  • マスコミは視聴率稼ぎの目的で、事実をセンセーショナルに歪めて記事にしている
  • 今後は嘘ばかりのネットに出回る書き込みやニュース等を一切見ないように
  • 外部の人間にはこの事件についての会話をしないように

そこに出席した保護者たちは(数人に聞きましたが)、おおかたその説明を信じたようです。

本当に信じてしまった人は思考停止状態なのか?

もしくは自分の子どもがそこに通う以上、信じてなくても信じたフリをして、異を唱えないのが保護者たちの処世術なのか?

実際、私に保護者会の様子を説明してくれた人も、キッとした顔で私にこう言いました。

「violetちゃん、マスコミの言うことなんて信じちゃダメだよ。6中は本当に、素晴らしい学校なんだから!」

残念ながらこの方は、完全に洗脳されてるようです。笑

しかし私には「説明会」というより「ツッコミどころ満載の苦しい言いわけ会」に感じられました。学校側はまるで「自分たちこそ被害者」というストーリーで説明しているみたいです。死人に口なしとはまさにこのこと。

和解してるなら、なぜ命を絶つのでしょう?
「いじめをするような悪い生徒はいない」というなら、なぜ”和解”という言葉が出るのでしょう?
別の学校に移った後まで執念深くSNSで中傷してるのに、”とうに和解している”というのは、強引すぎやしませんか?

ネットやニュースを一切見るな・外部の人間には口外するな

これは言論統治下の戦時中、もしくは信者を洗脳したい新興宗教の言いぐさです。ちなみに2018年11月7日放送のNEWS ZEROでは以下のような内容を放送しています。

今年8月、東京・八王子市の中学2年の女子生徒が電車に飛び込み約2週間後に死亡した。女子生徒は去年8月の夏休み中家族旅行のため部活動を休み写真をSNSにアップしたことで部活で、無視などをされ始め2学期から不登校になった。相談のため学校に行ったが、学校はいじめではなくトラブルと認識、部活動の顧問がSNSを送った上級生を指導し、謝罪させた。学校はトラブルは解決したと考えたが、不登校は続き今年4月に転校した。しかし転校後も上級生とSNS上でやりとりがあり、自殺をした。死後、連絡を受けた学校はいじめと認識。今日会見を開いた八王子市教育委員会はいじめがあったことは認めたものの、自殺の主たる原因かは断定できないと説明。今後第三者委員会を設置し調査するとしている。

保護者会での発言にあった「視聴率稼ぎの目的で、事実をセンセーショナルに歪めて」というほどではありませんが……

死人に口無し

少し前に賛否両論を集めたのが、ダウンタウン・松本人志さんのツイート。

まだたったの13才。電車に飛び込むなんて、痛かったろう、怖かったろう。そして、どれほど悔しかっただろう……

それでもこの子はどうしてもそこから逃げたかったと思うほど追い詰められていたのです。そんな状態で、損得や勝ち負けなど考えられないのは百も承知だけど、死んでからまでこんな言われ方をされたら、やはり死んでしまったら損です。

その理由は、この例のように死んでしまったらあった事実をなかったことにされるだけでなく、ずっと味方でいてくれた愛するご両親まで「精神錯乱」にされてしまうからです。

こんな侮辱発言を、保護者会で他のご父兄たちに言う必要があるのでしょうか?

愛する我が子が命を断てば、親御さんがふつうの精神状態でいられないのは当然です。この説明に対して、あらためて怒りを覚えました。このような隠蔽体質や事なかれ主義こそが、いじめの温床です。

もっと言えば、人を追い詰めてしまう行為はいじめではなくて犯罪です。犯罪である以上、「学校だけでは解決できない問題」です。

ひと一人の命が消えても、世の中は何も変わらない

日本では、どこの学校も決まって「いじめはない」と言いきります。そこが海外との違いです。

いじめは人とのちょっとした違いだけでも発生します。今回の件だって家族旅行を自慢と捉え、部活を休んだことを許さなかったひとりの部員が「部活をサボって旅行だなんて、ルール違反!さあ、アイツをいじめよう!みんなで無視しよう!」みたいな流れを作り、それに同調した他の部員も加わり、「正義の集団」と化してしてエスカレートした——これが大まかな流れでしょう。

「嫉妬はいつも正義の服を着てやってくる」。タモリはいいこと言いますよ。

ほんの一つ、他の部員たちと違う行動をしただけであっという間に学校中が自分の敵になる恐ろしさ。これは何かを変えればなんとかなるようなものではなく、人と人の繋がりの中で常に潜在する危険です。

だから海外では最初から「いじめはあるもの」という前提で考え、加害者に適切なペナルティを与えたり、カウンセリングを施したりする措置が取られます。

一方日本では「ない」と言い切ってしまうから、いじめの発覚は学校側にとっては不都合な事実でしかなく、「いじめではなく人間関係のトラブル」とお茶を濁す。「もみ消してしまえ」と目を背ける。「仲直りさせました。解決済みです」と形ばかりを取り繕う。加害者ではなくなぜか被害者が学校を追われる。——そうやって体裁を整えることに躍起となり「あるもの」を「ないことにしよう」とするからいつまで経ってもいじめはなくならないのです。

しかし、悲しいことにこれが現実。組織は、世の中は、学校は、こうなるようにできているのです。

彼らは彼らで生き残るのに必死。「いじめをなくそう」とポエムを語るけど、コトが起きてからでは教師は保身にしか走れず、何かを守るために何かを切り捨てなければならない、そんな究極の選択を迫られたとき、死んでしまった子より生き続けていく自分たちを守る方向に動くのは、事なかれ主義を信条とする組織のテンプレどおりです。結局はひと一人が死んだところで、この学校だけを叩いたところで、世の中は何も変わらないということです。

それを踏まえた上で最後にこの言葉を。以下は先日亡くなられた樹木希林さんの言葉です。

いま死ななくてもいいじゃない

「ずっと不登校でいる」というのは子ども自身、すごく辛抱がいることだと思う。うちの夫がある日、こう言ったの。「お前な、グレるってのはたいへんなんだぞ。すごいエネルギーがいるんだ。そして、グレ続けるっていうのも苦しいんだぞ」って。ある意味で、不登校もそうなんじゃないかと思うの。学校には行かないかもしれないけど、自分が存在することで、他人や世の中をちょっとウキウキさせることができるものと出会える。そういう機会って絶対訪れます。私が劇団に入ったのは18歳のとき。全然必要とされない役者だった。美人でもないし、配役だって「通行人A」とかそんなのばっかり。でも、その役者という仕事を50年以上、続けてこられたの。だから、9月1日がイヤだなって思ったら、自殺するより、もうちょっとだけ待っていてほしいの。そして、世の中をこう、じっと見ててほしいのね。あなたを必要としてくれる人や物が見つかるから。だって、世の中に必要のない人間なんていないんだから。私も全身にガンを患ったけれど、大丈夫。私みたいに歳をとれば、ガンとか脳卒中とか、死ぬ理由はいっぱいあるから。無理して、いま死ななくていいじゃない。だからさ、それまでずっと居てよ、フラフラとさ。

出典 : 2015年8月22日・登校拒否・不登校を考える全国合宿in山口/基調講演「私の中の当り前」より

「死なないで、ね……どうか、生きてください……」
去年の9月1日、母は入院していた病室の窓の外に向かって、涙をこらえながら、繰り返し何かに語りかけていました。あまりの突然の出来事に、私は母の気が触れてしまったのかと動揺しました。それから、なぜそんなことをしているのか問いただすと、
「今日は、学校に行けない子どもたちが大勢、自殺してしまう日なの」
「もったいない、あまりに命がもったいない……」
と、ひと言ひと言を絞り出すように教えてくれました。この2週間後に、母は75年の生涯に幕を閉じました。

出典:『9月1日 母からのバトン』より

追記 2019年〜2022年

【追記① 2019年8月31日】
当初いじめではなくトラブルとしていましたが、事件から1年後、市教育委員会はいじめはあったと認めるも、それが自死との直接的な要因とは「認めない」との判断を下しました。
【追記② 2021年5月14日】
第三者委員会による再調査により、「自死の直接の原因となった心理的苦痛等に一定の影響を与えたものと考えられる」と発表しました。「自死はいじめが原因である」と認められるまで、実に3年もの時間がかかったわけです。
【追記③ 2022年6月23日】
事件から4年近くが経過。ノンフィクションライター高木瑞穂氏が「重大事件のその後」を追い続けた記事を公開しました。ご家族への取材を元にこの事件の全容がまとめられています。

 

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このブログは私が日々感じたこと、考えたことに独自の視点を交えて書き留めている忘備録です。読者の方に少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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