ロードショーを見逃して、気になりながらもそのままになっていたのがジュリアン・ムーア主演の「アリスのままで」。レンタルで見つけてようやく観ることができました。
映画「アリスのままで」概要
ストーリーは、ニューヨーク・コロンビア大学で言語心理学の教授を務める50歳のアリスが若年性アルツハイマーと診断され、静かに、しかし確実に病状が進行していく様を描いた物語です。
よくあるお涙ちょうだいものではありません。希望はないけど不幸だけでもないという様を、淡々と描いた内容に仕上がっています。
こういった映画の多くは家族の愛や介護する側の視点で美しく描かれがちですが、この映画は違います。アリスの視点で描かれているのが印象的でした。
病気は人としての尊厳を奪い取ります。記憶を失うことへの恐怖は生易しいものではありません。一つ一つ剥ぎ取られていく感じです。
自分の家の中でトイレがわからなくなり、失禁してしまう。ジョギングに行っても帰り道がわからなくなる。それまであたりまえにできてたことができなくなる切なさと苦しさ。いつまで自分が自分でいられるのかが全く見えない恐怖、焦り。
物語中盤でアリスのスピーチが始まりますが、それこそがアリスの気持ちそのもの。いや、アルツハイマーを患う方たちの気持ちです。
私は母とだぶらせて、そのスピーチを聞いていました。
がんの方がマシ?
映画の中でアリスは泣きながら「がんの方がマシだった」と言います。これはもう、自分の母を見てきた私が、まさにその通りだと思う台詞でした。がんは進行しても治療すれば治る可能性がありますからね。
母は認知症なので正確な状況はアリスとは違います。なので同じレベルで語るべきではないのかもしれませんが、混乱する様や気分の落ち込み方など、細かい部分は一致します。
元々口数の少ない母は、自分の苦しい気持ちをアリスのように的確に伝える術を知りませんでした。
私たち家族は、目の前で起こる現実に向き合うのが精いっぱい。自分の母がかつての母でなくなっていく恐怖を感じるのが先で、母の苦しみまで理解してあげるゆとりもありませんでした。
最初の異変から20年以上経過した今、母は記憶と言葉を忘れました。それだけでなく、口から物を食べるという生きていく基本の術も忘れました。10年前から胃瘻で命を繋いでいる状態です。
ごく原始的な感情はあるかもしれません。しかし、意思の疎通はできません。ただ横たわって息をしているだけ。私の顔も忘れています。
それでも生きていることに違いありません。果たしてこれでも生きていると言えるのだろうかと、この20年間、何度も自問自答してきました。
少なくともがんなら自分の余命がどのくらいなのか、ある程度はわかります。終わりが見える分だけまだマシかもしれません。少なくとも、”自分”として死ぬことだけはできますからね。
心無い言葉にも傷つくことを知ってほしい
認知症をよく知りもしない人は、わからなくなれば苦痛も感じないと思い込み、「ボケた者勝ちよ!」などと知ったかぶって物を言います。でもこれは、とんでもない話です。ぼうとくです。
「ボケ」という言葉は適切ではありませんが、世間はこう表現するのであえてそう使います。母はいつもボケているわけではありませんでした。いつもどおりの、私が幼い時からよく知っている母の時もあり、病気に侵され痴呆になった母の時もありという感じ。いつも通りの状態の母は、病気の状態になった自分の姿を客観的に見ていたので、当然苦しんでいました。
ある部分の記憶がスポッと欠落する箇所がありますが、いつもそうではないのです。だいたいのことは普通にできていて、突然そこだけが欠落するという感じです。それに対して自分が焦ったり混乱して苦しむのです。
それを理解してないから少しくらいのことを言ってもいいだろうと、本人を前にして無神経な言葉を投げかける人もいましたが、そんな言葉に母は深く傷ついていたのです。情緒的にも不安定なことが多く、それが病状を悪化させる原因の一つでもありました。
後悔だって記憶の一つ
もし時間を戻せるのなら、もっと初期の段階に、もっと適切な処置をすればよかったと思います。後悔先に立たずとはよく言ったものです。
でも記憶をなくすということは、そんな後悔した記憶すらもなくしていくということ。私の人生なんて、後悔を一つ一つ積み重ねて出来上がっている部分がありますから、後悔だろうがなんだろうが、それらも含めて自分の人生でもあるわけです。
あまりいい意味に使われない後悔でも、自分の人生の一片を形作っているものであるなら、それはそれで価値があるのかも。少なくとも、全てを失うよりははるかにましだと、この映画を見てそう感じました。
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