昨日の騒ぎの間、もう一軒のお隣さんはとうとう出てきませんでした。
以前ならいの一番に出てきて、いつまでも誰かを捕まえては長々と話しこんでいたような人でしたが、ある理由から今はそれができなくなってしまいました。その詳細については割愛しますが、外に出ることができないストレスは、想像以上に彼女には大きなものでしょう。
狭い仕事場が彼女の世界の全て。友達と呼べる人はいない、それを気にして儀礼的な物のやりとりだけは続けているけど、彼女の望む関係には至らない。話し相手は手伝いにくる妹だけ。家族の会話も用事を伝えるだけで会話というより伝言です。でもそこにいれば外からのストレスは避けられます。
この生活があと10年も続いたら彼女はどうなるでしょう?今は仕事があるから紛れるかもしれませんが、いずれは仕事も辞める時が来ます。現時点ではそこまでは考えてないと思いますが、いつか、昨日のおじさんのような爆発がありそうです。いや、外に吐き出すタイプではありません。内にこもるタイプです。
最初に受けた彼女の印象はマイナスのオーラでした。おとなしくて地味な印象はありますが、言葉だけはドキッとするほど鋭く、容赦なく人をこき下ろす人でした。他人に対する憎しみが彼女のエネルギーの源という一面を見たとき、決して大人しい性格ではないなと、怒らせたら面倒な人だなという危険信号を感じました。暗いタイプですが自己顕示欲も強く、気が小さい割にはつっぱった物の言い方をします。なりたい自分の理想像と現実の自分の姿のギャップを、ハッタリでごまかしている、そんな感じです。
現実にはそこまで人は他人のことなど感知しませんが彼女は他人の目ばかり気にして生きているから、他人もそうだろうと思いこんでいるようです。これも彼女特有の不幸体質です。幸せを感じる能力を鍛えることに目を向けるのでなく、他人から幸せな人と見られたいと、体裁を取り繕うことに意識が向くのです。
ずっと家にいるから彼女には話題もネタもありません。意識は自然と他人に向かいます。他人のどうでもいいことを執拗にほじくり出しては話題にしますが、他人の幸せは許せない、狭い世界でお山の大将になりたがり、それが叶わないとストレスを受ける、それが彼女の特徴です。
今手にしている幸せを感じる力が弱いのです。人と比べては自分にないものを探すのが彼女です。普通なら持ち家があって家族がいて仕事があるならそれだけで十分に幸せなはずですが、彼女にはそれが不満なのです。自由時間を使える専業主婦と比べては、仕事のせいで自分には自由な時間がないと思うからです。そういった思考回路は60も半ばになった今からは直せません。だから仕草や表情に出るのでしょう。
人は誰もが幸せになりたがります。何をもって幸せと言うのか、基準は個々に違いはあるでしょう。でも彼女や昨日のおじさんを見ていると、少なくとも物質だけではないと確信します。
「幸せはなるものではなく、感じるもの」それがわからなければ本当の幸せにはたどり着けません。いや、辿りつくという表現も少し違いますね。だって幸せはいつも自分の手の中にあるのですから。
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